対クライアント著作権契約ハンドブック Q&A

著作権は原初的に製作者に発生する。

Q1: クライアントがあらかじめ著作権を「甲=発注者に帰属する」と条件を示した場合、はじめから製作者に著作権は認められないことになるのでしょうか?
A1: 本来、映像(映画、ビデオ、およびそれに類似する効果をもつもの)の著作権は、その映像の著作・創作行為に「発意と責任を有する者」すなわち製作者に帰属することになっています(著作権法、第29条、第2条10号)。また、映像の監督が製作会社の職務として監督した場合は、製作会社が著作者となります(第16条、第15条)。また、著作者は、財産権としての著作権とは別に、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を「享有する」(生まれながらに持っている)ことも規定されています(第17条)。
このことは、クライアントがプロダクションに映像の製作を委託する場合、たとえ製作費全額をそのクライアントが拠出していたとしても、その映像の著作権は、原初的に製作者に発生することが著作権法上の原則だということです。厳密には、契約書上「甲=発注者に帰属する」と条件が示された場合であっても、映像が完成した段階で著作権が製作者(製作会社)に帰属していることになります。
しかし、Q2で詳しく説明しますが、財産権としての著作権は、契約によって「譲渡」が可能です。そこから、民法でいう「契約の自由の原則」または「私的自治の原則」に基づいて著作権をあらかじめ「甲=発注者に帰属」させるという契約を結ぶことも、法的には当事者どうしの意志の問題ということになるのですが、これは、上に述べた著作権法の原則に照らせば、乙が原初的に取得した著作権が契約によって「乙から甲へ無償で譲渡」されたことを意味します。契約書条文の解説の項でも述べましたが、通常の委託―受注の関係であれば、著作権は明らかに製作者(製作会社)の側に発生していますから、直接製作費とは別に著作権の譲渡に係る「対価」の交渉は当然あってしかるべきであり、質問のような契約パターンが現実に横行していることは、本当に遺憾なことです。
(ただし、クライアント=甲が直接「製作者」を名乗り、実際に製作会社のスタッフを手足のごとくに指図し、製作会社=乙が「製作協力」として参加する場合、―例:撮影のみを請け負うなど―は例外です。しかし、実態は「製作」となんら変わりないのに、「製作協力」というような、製作者の権利を剥奪するためだけの契約書が存在することも聞かれます。)
映文連の契約書条文例は、著作権は「乙に帰属」し、「甲の利用に同意する」を基本パターンと考えています。なお、条文解説の項も参照してください。

Q2: 著作権の「譲渡」について説明してください。

著作権

A2:上に示したように、ひとくちに「著作権」と言っても、その内容=著作者の権利は、大きく「著作者人格権」と「財産権としての著作権」に分かれます。このうち財産権としての著作権(映像の場合、複製権、上映権、頒布権、公衆送信権、送信可能化権、二次利用権など)は、その一部または全部を譲渡することができます(第61条)。財産権としての著作権を構成する個々の権利を「支分権」と呼びますが、契約の際に支分権ごとに譲渡したり、しなかったりすることも可能です。これを「支分権譲渡」といい、実質的には著作権の共同所有になりますが、詳しくは条文解説の項や次のQ3を参照願います。
 なお、著作者人格権は、「著作者の一身に専属し譲渡することができない」(第18条~第20条、第59条)ことになっています。クライアントによっては、契約によって「著作者人格権の不行使」を乙に約束させる例もあり、このような条項が有効だとすると、著作者人格権は譲渡されていないものの、事実上行使できなくなります。
著作者人格権の不行使については、著作権譲渡後の譲渡人による自由な使用を確保する必要から、このような規定が設けられるのが一般的です。(監修者)
このような場合、仮に著作者人格権で争うとしても、その内容は実質上、ほぼ「同一性保持権」に限られることになりますし、著作者人格権で争うよりは、複製権や翻案権の問題として主張した方が得策かと思います。

Q3: 著作権は「発意と責任を有する」映画製作者に「帰属する」とのことですが、実際の製作過程では、企画はもちろん、構成案やシノプシスの内容にいたるまでクライアント側からさまざまな関与があるのが普通です。このような実態でも著作権は乙に帰属すると言いきれるのでしょうか?
A3: おっしゃる意味はよくわかります。しかし、ここでいう「発意と責任」とは、単にその映像を作ることの「発意と責任」ではなく、その映像の著作・創作行為についての「発意と責任」のことなのです。したがってクライアントの関与があっても、その映像の著作・創作行為についての「発意と責任」が製作者(製作会社)にあれば、著作権は製作者(製作会社)に帰属します。
 条文解説の項でも述べましたが、契約は双方の利益を尊重し、当事者双方が納得できる契約を取り結ぶことが肝心だと思います。また受注した映像は、クライアントの目的のために製作するのですから、完成した映像著作物をクライアントが円滑に利用できるよう配慮することは当然のことです。
 そこで、著作権をどちらの側に帰属させるかが問題となるわけですが、CMの業界などでは、「CMは、広告主、広告会社、制作会社の三者の協力によって創られる」として、三者のいずれに帰属するのかを、あえて問わないことにして共通の利益をはかっているようです。この小冊子では、製作者(製作会社)に原初的に著作権が発生することをクライアントに認めていただくことを前提に、当事者の合意により、製作者(製作会社)とクライアントが著作権を共同所有とする契約を結ぶことも、クライアントと製作者(製作会社)双方の<共存・共栄>をはかるためには、ひとつの選択肢ではないか、と提案しています。詳しくは、条文解説の項を参照してください。
Q4: 企業を発注者として製作される映像では、その企業名だけが映像中にクレジットされ、製作者(製作会社)名は割愛されている作品が多いと思われます。この状態で製作会社として著作権を保持していると言い切っても支障はないのでしょうか?
A4: 製作会社が著作者でもある場合を前提として説明しますと、この場合は、製作会社として保持している著作者人格権の「氏名表示権」を行使していないだけだと思われます。製作会社名を表示していないからと言って、著作権保持者ではないとは言い切れません。
 もちろんQ1Q2で詳しく説明したように、財産権としての著作権が契約によって発注者の企業に譲渡・移動させられていることが考えられますが、そうだとしても製作会社が「著作者」であることに変わりはなく、製作会社は、なお「氏名表示権」を含む著作者人格権を保持しています。
 映像の種類によって、その製作意図と利用目的を考慮すると、製作会社名や製作スタッフの氏名を表示することが馴染まない場合もしばしばあるということでしょうか。
 しかし本来は、著作者の証としての「氏名表示権」を行使すべきだと思います。

監修者の先生にも著作権がある?

Q5: 学術映画の監修者である研究者の先生が”私にも著作権がある”と主張していますが…。作品は先生の学術論文をベースにしており、脚本完成時、作品完成時にチェックをしてもらっています。
A5: 研究者の先生の学術論文をベースにして、脚本完成時や作品完成時にチェックしてもらっていても、映像の全体的形成に創作的に寄与したことにはならないので、監修者である研究者の先生が著作者になることはありません。また、映像の著作権は製作者(製作会社)に帰属していることも、Q1ですでに説明したとおりです。
 ただし、先生の学術論文をベースにしている場合、その利用方法によっては、映像が学術論文の「翻案」となる場合があり、この場合には研究者の先生が映像の「原著作者」とされることもあります。反対に、学術論文をベースにしていても、それが単なるアイデアとしての利用であれば、「原著作者」とはなりません。あくまで、その映像の創作的形成に全体として寄与した者が、著作者となるということです。
Q6: 単なる工事記録の映像も著作物といえるのでしょうか?
A6: 単なる工事記録であっても、それは単なる録画物ではなく、そこには製作会社スタッフの創作性(カット割り、カメラアングルの設定、照明効果など)が含まれていますから、それは著作物として認められます。

総集編の製作が別会社に…

Q7: ある官庁から随意契約で工事記録を数年間受注してきましたが、総集編の製作にあたって別会社に委託されようとしています。契約書上は「著作権は甲に帰属」となっているのですが、引き続き当社が受注するための法的な拠り所はないのでしょうか?
A7: まず、契約書上「著作権は甲に帰属」となっていても、著作権は原初的に製作者(製作会社)に発生するという、Q1の原則を、クライアントに対して確認していただきたいと思います。上記の原則が確認できれば、契約で著作権(財産権)が移動しているとしても、製作者(製作会社)が映像の著作者でもある場合は、なお著作者人格権を保持していることになります。自分が製作した作品を、「総集編の製作」の名目で他者が無断で改変することは、著作者人格権のひとつである「同一性保持権」の侵害にあたります。
 これらの事情をクライアントに強力にアピールしたうえで、もし、やむを得ない事情で第三者に編集が委託される場合は、撮影を行った製作会社の許諾を得、さらに使用する映像の長さに応じた映像使用料を支払う必要が生じるということを主張されるといいと思います。
 これらの主張をとおして、撮影を行った製作会社は、撮影時に企画者であるクライアントの目的と意図を充分に理解しているので、引き続き編集作業を請け負うことが、商慣習としても確立していることを、クライアントによく理解してもらうことが大切です。

原版・マスターテープの納品を求められたら?

Q8:クライアントが当初の契約から「著作権を甲に帰属」させることを前提に、マスターテープを納品させ、頒布用のコピーを別会社に発注する例にしばしばぶつかります。どのように対応すべきでしょうか?
A8: 複製権は、映像製作者にとって最も基本的な権利のひとつであり、複製は、製作者(製作会社)みずからが行うということは、商慣習としても確立していることです。適正な製作費を単に圧縮させる目的で、複製権を含む著作権を製作者(製作会社)に放棄させることを事実上強要するような契約がなされているとすれば、それは「契約」の基本精神にもとるものであり、Q22でとりあげる独占禁止法にいう「優越的地位の濫用行為」にあたるのではないか、とも考えられます。が、ここでは、そのような契約が結ばれた後になって問題が生じた場合を仮定してみます。
映画がフイルムでなければ利用できなかった時代には、「著作権は甲=発注者に帰属する」という契約を結んでも、映画製作会社はオリジナル・ネガの管理を託され、複製プリントの受注にあたってはその品質に責任を持って業務にあたり、契約上著作権を(無償で)譲渡していても、実質的な利益を得ることができました。しかし、ビデオさらにはデジタルコンテンツの時代になり、かつての商慣習が前提していた技術的条件が変化したにもかかわらず、契約の文言はそのまま残るという事態に、現在多くの製作者(プロダクション)が困難に直面しています。
この点に関しては、昨今、経済産業省、公正取引委員会などが、コンテンツ産業の育成および独占禁止法の観点から、好ましい「契約慣行」の実現にむけて指導を強め、当連盟でも、今日的な時代の要請に応える「新しい契約パターン」の提唱を始めております。(Q2Q3を参照)
 この場合、製作者(製作会社)として主張しなければならないことは、(1)複製権は映像製作者にとって本来もっとも重要な権利であり、複製は製作者(製作会社)が行うのが商慣習としても確立していること、(2)その費用は製作費のなかで考慮していただきたいこと、(3)マスターテープを納品してしまえば、複製物のクォリティに製作会社として責任がもてなくなること等にまとめられると思いますが、以上の前提として、やはり著作権は原初的には製作者(製作会社)に発生しているというQ1の原則を、クライアントに認めてもらうことが第一歩になると思います。その意味で、権利主張は、常に原則に立ち返ることが大切です。

Q9:1~2本の複製を発注するのは面倒であるから、原版の所有権は企画会社にあるので、原版を返してくれと言われています。特に複製権の譲渡についての契約上の取り決めはありませんが、どう対処すればよいでしょうか?
A9: 著作権の譲渡について、契約上の取り決めはないということですが、この場合、原版を保管し、必要に応じて複製業務を行ってきた製作会社としては、過去の実績から、頒布権および上映権のみを事実上譲渡し、複製権を含む他の支分権は製作会社に留保されていると考えられます。(支分権譲渡についてはQ2を参照)今後、複製権の譲渡を改めて申し込まれたと考えると、相応の対価の支払いが生ずることを主張しなければなりません。むしろ映像製作業界育成のためにも、複製業務を残して欲しいと要望するほうが望ましいのではないでしょうか。
Q10:以前にA社(クライアント)から製品紹介ビデオを受注し製作・納品しました。今回、クライアントの担当者が変わり、「完成原版のコピーを渡してほしい」と言われました。どうやら、他社で製作中のA社紹介ビデオに、当社の映像の一部を使用する予定のようです。このような場合どうしたらよいのでしょうか?
A10:当初の契約で、著作権がクライアント(甲)に帰属しているのか製作者(製作会社・乙)に帰属しているのかで、対応が当然ことなってきますが、「甲に帰属」となっていても、Q7の場合と同様に製作者(製作会社)はなお著作者人格権を保持している場合があります。ご質問の場合のように、既存の作品の一部のみを抜粋することは、著作物の改変にあたるので、著作者の同意がないと著作者人格権(この場合は同一性保持権)を侵害することになります。クライアントにはまずそのことを理解してもらう必要があります。
 その上で、新規製作ビデオの一部に使用する映像の長さに応じて映像使用料を支払ってもらうよう交渉にもちこむことができればベストですが、いずれにせよ、相手に渡すコピーは、著作権を製作者が保有している場合はもちろん、契約でクライアントに移っている場合でも、使用希望の部分のコピーのみを素材として提供するに止め、原版のコピーを丸ごとクライアントに提供するようなことは控えるべきです。このケースでは、原版の保管・管理責任が、あいまいにされたままの状態できている経緯があるようですが、そうだとすれば、これまで事実上製作会社の側で保管・管理の責任を負ってきた実績があることも、交渉の際に主張されるといいと思います。

当初の契約にはなかった利用について、必要な権利処理について

Q11:契約上は「著作権は甲に帰属」となっている旧作を、クライアントが当初の利用範囲を超えて、近い将来インターネット上で公開したいので作品のコピーを納品するよう求められました。大事なクライアントからの要望なので断ることはできないと考えていますが、対価を請求するとか交渉の余地はないでしょうか?
A11: 契約時当初の目的を明らかにこえると判断できる場合は、契約内容に含まれていないため、新たな利用範囲について別途契約を行うことを、クライアントに申し入れることが出来ます。ここでも著作権はまず製作者に発生していること(Q1の原則)を確認した上で、製作会社と話し合ってほしいということを、強力に申し入れるべきでしょう。
 また、このケースのようにインターネット上の公開など、当初合意されていた範囲を超えた利用に関しては、製作に関わった様々な関係者の許諾を得なければならないことを、クライアントに理解してもらう必要があります。関係者の許諾については、下記に挙げられているそれぞれに了解を得る必要があります。申し入れをして了解を得るだけの場合と、対価を支払って了解を得る場合がありますが、特に(2)については、ほとんどの場合、対価を支払って了解を求めることになりますので注意が必要です。
(1)映像の著作物の全体的形成に創作的に寄与した人

  • ・プロデューサー、ディレクター、カメラマン、照明担当者、美術担当者

(2)映像の部品として利用されている独立の著作物

  • ・音楽、レンタル可能映像、美術(絵画等)、脚本、原作

(3)映像の部品として利用され著作隣接権を持つ実演家(者)

  • ・ナレーター、俳優、タレント、出演者(プロである必要は無い)
※ただし、上記の関係者が製作会社の社員であるなどの理由により、映像の著作権も著作者人格権も製作会社に帰属している場合には、各社員からあらためて了解を得たり対価を払う必要はありません。
Q12:10数年にわたって、同一テーマで作った数作品を、まとめてCD-ROMに再編集する企画がクライアントより立案されました。他社製作作品もあり、素材提供のみが求められました。製作時にはCD-ROMは存在しなかったので、契約上は特に取り決めはありません。
A12: 当初の契約時には、CD-ROMというフォーマットは、まだこの世に存在せず、しかもCD-ROMへの再編集という使用形態ですので、この場合は契約外の二次使用に当たります。この場合もQ11と同様、この使用形態について別途契約を行うことを、クライアントに申し入れることができます。クライアントの便宜をはかり、素材提供の方向で行くべきですが、素材の蔵出し手数料、素材の二次使用の対価等を要求・協議する必要がでてきます。(著作権法、第28条、第61条2項参照)そのほか製作関係者の許諾については、Q11を参照下さい。
Q13:製作費を出したのだからという理由で、完成作品の一部を広告に使用したいが、素材を無償提供して欲しいと要求されています。契約書は取り交わしておりません。
A13: まず、「製作費を出した」ということが、ただちにクライアントが著作権を取得する理由になり得ないことは、Q1以下で詳しく説明してきたとおりです。契約書が無いとのことですが、この場合、完成作品の広告への使用が当初の契約であきらかにされていない限り(だからこそ契約書を取り交わす必要があるのですが)、目的外の使用ということになりますので、製作者(製作会社)側には、あらたに利用許諾を与え、相応の対価を求める権利があることになります。
Q14:契約書では、「著作権は企画会社と製作会社の共有」と明記されている古い作品の1カットを企画会社のホームページに使用したいので、無償提供して欲しいと言われています。どう対応すればよいでしょうか?
A14:単に「著作権は共有」というのは意味内容があいまいです(Q2を参照)が、この場合は、甲乙どちらかが勝手に目的外利用もしくは二次利用ができないよう、両者の合意を条件づけているのだろうと考えられます。ホームページへの一部転用は、あきらかに二次的利用にあたりますので、無償ではなく、Q11~13のケースと同様に対価の請求ができます。

製作会社・代理店・クライアントの利益配分は?

Q15:過去に受注・製作した映像作品の販売を当社で企図しました。クライアントおよび広告代理店、製作に関わった様々な担当者(社)への許諾が必要と思われますが、はたしてどの程度の範囲まで許諾を得る必要があるのでしょうか?また、販売から出た利益の配分はどのように分配するのが適当なのでしょうか?
A15: このケースは、著作権を製作会社が保有している場合ですが、「クライアント」ならびに「広告代理店」への申し入れと了解を取り付けるのはもとより、製作関係者への許諾については前記Q11で挙げた(1)(2)(3)のそれぞれに了解を得る必要があることは同様なので、詳しくはそちらを参照願います。
 利益配分の例としては、販売価格から実費を差し引いた金額を利益として、クライアント、広告代理店、製作者の三社で等分ということも考えられます。
 但し、製作者が第三者(前述の権利保有者)に許諾料を支払わなければならないとすれば、その金額にもよりますが、クライアント:代理店:製作者=3:3:4でも、2:2:6でもよく、要は申し入れを了解してもらえば、金額の比率は交渉次第ということです。

受注時に完成作品の「著作権フリー」を求められたら?

Q16:クライアントの広報映像を広告代理店より受注し制作することとなりました。広告代理店を通じて、制作開始前(場合によっては開始後)に、映像の全体あるいは一部を通常の上映形態以外でも使用できるように、完成した映像はクライアントに対して著作権フリーとするよう要請されました。この場合、クライアント→広告代理店→製作会社という力関係もあり、むげには断れない状況ですが、どのように対処するべきなのでしょうか?
A16:現実問題として「著作権フリーの要請」に応えることは、そう簡単ではないことをクライアントに理解してもらう必要があるのではないでしょうか。
簡単ではない例としては、
(1) 作品の創作面に寄与した多岐にわたる関係者(社)に対し、それぞれが持つ権利の放棄の要請をするには相当の手間と、場合によっては相応な対価が必要となり、製作予算に跳ね返ること。
(2) 特に、未来のフォーマットまで含んだ譲渡となると、対価の算出根拠が明瞭ではないので非常に高額になる可能性が高いこと。
(3) すでに別個に権利を保有している特定の映像素材や音楽等は使えないことになってしまうこと。
(4) いくらか世に出回る「著作権フリーの素材」は、最初の料金を支払えば未来永劫使用可能というものの、それなりの素材でしかないこと。
将来のあるかないかわからない使用方法にまで、現時点で費用の発生を認める愚行に気づかせるべきです。

未使用素材の著作権の帰属について

Q17:クライアントより受注し製作した映像の、未使用素材の著作権は誰に帰属するのでしょうか?
A17: 映画(像)の著作物として完成していない未使用映像の著作権は、映像の著作者(監督などのメインスタッフ、または法人著作が成立する場合の製作会社)に帰属します。この質問には、参考となる判例がありますので、概略を紹介します。
<三沢市勢映画事件>
 原告の映画監督は、青森県三沢市の歴史と風土を描く映画を企画し、三沢市に協力を求めましたが、市から法人でなければ業務委託できないと言われ、映画製作会社(被告)が市と契約し、原告は監督(一部カメラマンを兼ねる)として参加しました。その映画は、市の歴史と市勢を描く映画2編となる予定でした。
 しかし、取材先の事情などから撮影が順調に進まず、話し合いにより1編分のみ完成させ、市に納品しました。
 その後、監督(原告)から未完成映画の「撮影済フィルム」の著作権は監督にあることの訴えが起こされました。
 この訴えの控訴審判決で裁判所は、映画製作者が映画の著作権を取得するためには著作物と認められる映画が完成することが必要であり、本件については著作物と認める映画はまだ完成していないと認定したうえで、「・・・・・そうであれば、本件フィルムに撮影収録された映像著作物の著作権は、監督としてその撮影に関わった著作者である控訴人にいぜん帰属するものといわなければならない。」と判示し、原告である監督の訴えを認めました。すなわち、未使用の撮影済フィルムの著作権は監督にあると認めたのです(東京高平成5年9月9日)。
 本事件はその後上告されましたが、結局棄却され原告である監督の勝訴が確定しています(最二小判平成8年10月14日)。
この事件は、映画製作会社と当該映画の製作に参加契約した監督とのあいだで争われたものですが、確定した判決の中で示された裁判所の判断に注目すべきものがありました。
それは未使用フイルムが完成作品とは別個の著作物であるとの判断が示されたことです。
(※但し、判決文は、異なるケースではなお争う余地があることを認めています。
官公庁からの受注製作などで、撮影済み素材の提出を求められるケースがしばしばあるようですが、クライアントの秘密に属するような情報が含まれている場合は別として、公正な契約のためには改善を求めてゆきたいポイントです。
Q18:以前クライアントから製品紹介ビデオを受注したのですが、一部改良製品の発売にあたりビデオの修正は自分たちで行うので、その映像素材を貸してほしいと言われました。映像素材を渡してしまうと他社に改訂版の仕事を発注されてしまいそうなので貸したくないと考えます。このような場合、どうしたらよいのでしょうか?
A18: 一般的に映像の製作を受注する場合、クライアントの依頼に基づく内容で完成原版を製作し、その複製物を必要とするメディアにコピーして納品することが契約の終局目的とされます。したがって制作工程で生じた映像素材は納品物を完成させる過程で生み出された中間生成物とみなす事ができ、映像素材までをクライアントに引き渡すことは、契約本来の目的ではないということになります。
 この中間生成物である映像素材については、クライアントとの特約がない限り、所有権は製作会社に帰属するというのが一般的です。またQ17で説明したように、未使用素材は完成作品とは別個の著作物であるとの裁判所の判断例もあります。
 しかしだからと言って、クライアントに対して強く引渡しを拒むことも現実的には非常に難しいかもしれません。事前にこれらのことを取り決めておかなかった場合には、両者話し合いを持ち、ビジネス判断で結論を出すことになるでしょう。

クライアントから原版の返却を求められたら?

Q19:クライアントから過去に製作した作品の「ネガ原版を引き渡してほしい」と通知を受けました。クライアントの経理処理上原版を廃棄する必要があると言うことです。この場合どのように対処するべきでしょうか?
A19: クライアントの立場は、資産の経理的処理として処分しなければならないということです。この場合、原版は引き渡さなければなりません。
 但し、原版は返してもその複製を作成して保管しておくことを勧めます。フィルムの複製原版は予算的にも高額となってしまいますが、予算に応じてデジタルビデオテープ等に複製しておくとよいでしょう。

著作者人格権あれこれ

Q20:クライアント企業が合併して新しい会社になりました。すでに完成している作品の企画者表示(クライアント社名)だけの変更を、費用の関係だけで他社にて一括に差し替えると要求されましたが、著作者人格権の主張はできるでしょうか?
A20: 企画会社社名表示のみの改変で、作品の改変を伴わないのですから、ただちに著作者人格権の議論にはならないのではないでしょうか。他社に業務を一括依頼する点については、製作者尊重の精神、また製作者育成の観点から、相応の蔵出し手数料を求めるのが妥当と考えます。
Q21: 作品完成間際のクライアント立会い試写で、1シークエンスの差し替え要求が出て、ディレクターと意見が対立して合意ができません。完成前での著作者人格権の主張はできるのでしょうか?
A21: 著作物が完成していないので、著作者人格権で争うのは得策ではありません。このような問題は、著作権を持ち出すのではなく、あくまでも、ディレクターとしての責任で、その作品の芸術性や完成度などの問題として、クライアントの説得に努めるべきだと考えます。

公正取引委員会の独占禁止法上の指針とは?

Q22: 公正取引委員会が、著作権契約のありかたについて指針を公表したと聞きました。どのような内容なのでしょうか?
A22:  公正取引委員会が、平成10年3月に公表した「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」には、クライアントと製作会社とが互いに対等な立場で、公正な著作権契約を取り結ぶために、きわめて重要なガイドラインを含んでいます。以下すこし長くなりますが、その要点を紹介します。
 公正取引委員会は、上の「指針」で、例えば映像著作物のような「役務の成果物」が取引対象となる委託―受託において、「取引上優越した地位にある委託者」(発注者・クライアント)が、受託者(製作会社)に対し、「次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者(製作会社)に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。」として、3つのケースにおいて、「独占禁止法上問題」となると指摘しています。要約すると…

  • (1) その映像著作物が委託者との取引の過程で得られたこと、また委託者の費用負担により製作されたことを理由として、一方的に著作権を委託者に帰属させる場合。
  • (2) その映像著作物が、委託者との取引の過程で得られたこと、または委託者の費用負担により製作されたことを理由として、受託者に対し、一方的に二次利用を制限する場合。
  • (3) 「他に転用可能な成果物等」(例えば未使用の映像素材です。)が、委託者との取引の過程で得られたこと、または委託者の費用負担により製作されたことを理由として、一方的にその著作権を委託者に帰属させたり、受託者に対し、その二次利用を制限する場合。
 なお、「取引上優越した地位にある場合」とは、同指針で次のように定義されています。「受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、委託者が受託者にとって著しく不利益な要請等を行っても、受託者がこれを受け入れざるを得ないような場合」その判断に当っては、

  • ・ 受託者の委託者に対する取引依存度、
  • ・ 委託者の市場における地位、
  • ・ 受託者にとっての取引先変更の可能性、
  • ・ 取引当事者間の事業規模の格差、
  • ・ 取引の対象となる役務の需給関係等
を「総合的に考慮する。」としています。

「コンテンツ振興法」の成立は、プロダクションにとって大きな前進

Q23:「コンテンツ振興法」が成立しましたが、著作権契約にとって、どのような意味があるのでしょうか?
A23: 平成16年5月28日、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」(通称:コンテンツ振興法)が、成立しました。同法には、国との受注契約において、<著作権>をプロダクションが保有することに途をひらく画期的な条文が盛り込まれています。 Q1でも述べたように、国や地方公共団体などから映像製作を受注する際、現状では、わずかの例外は見られるものの、圧倒的な事例で、仕様書や説明会の段階から、著作権は「甲=発注者に帰属する」ものとされているのは、非常に遺憾なことです。
この問題に関連して今度の「コンテンツ振興法」が注目されるのは、<コンテンツに係る知的財産権の保護><円滑な流通の促進>を目的とした国の施策を求める条項に加えて、国はコンテンツ事業者と<公正な取引関係を構築>し、<中小企業者へ配慮>しなければならない(第20条、第21条)ことを前提に、委託(または下請け)契約において、<著作権>をプロダクションが保有することに途をひらく条項(第25条)が盛り込まれていることです。(コンテンツ・バイドール規定、脚注を参照)
第25条は、「受託者等」が国への報告など一定の誓約することを条件に、国が知的財産権を「受託者等」から「譲り受けないことができる」としている。 (なお、この条文にひそむ深い意味については、次項<コラム>を参照して下さい。)
従来、国は、著作権を自ら取得できる法的根拠として、「国有財産法」(第1条、第2条)を挙げてきました。しかし、他方で「著作権法」は、コンテンツの創造的行為に<発意と責任>を有するプロダクションに著作権が帰属することを定めています。法体系としては矛盾していることになりますが、国の見解は、「国有財産法を優先させる」というものが、従来の財務省・理財局の公式見解でした。
今回の法案にコンテンツ・バイドール規定を盛り込んだ意図を、提案者の自由民主党 甘利明氏(衆議院議員)らは、「国有財産法に風穴をあける」ため、と説明しています。
もとより「コンテンツ振興法」は、あくまで<基本法>の性格をもつもので、国が著作権を「譲り受けない」ことにするかどうかは選択肢であって強制規定ではありません。しかし、これまで劣悪な契約環境を強いられてきた多くのプロダクションにとって、状況改善のための貴重な前進となることは、間違いありません。
「コンテンツ振興法」は、今後、国や地方公共団体などとの契約の際に<強い味方>となってくれることでしょう。
なお、附則により、第25条を含む同法の完全施行は、平成16年9月4日とされています。
注:「バイドール法」1980年にアメリカで制定された”Patent and Trademark Act Amendments of 1980″の通称。この法律により、政府の資金によって大学が研究開発を行なった場合、特許権が政府のみに帰属していた制度が、大学側や研究者にも特許権を帰属させる途が拓かれた。

Q24: 「コンテンツ振興法」<譲り受けないことができる>という条文の深い意味
平成16年5月28日、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」(通称:コンテンツ振興法)が、成立しました。同法には、国との受注契約において、<著作権>をプロダクションが保有することに途をひらく、画期的な条文が盛り込まれています。
 同第25条には、国は、「受託者等」が国への報告など一定の誓約することを条件に、国が知的財産権を「受託者等」から「譲り受けないことができる」、と規定されています。
 この<持って回った>ような言い回しには、実は深い意味があるのです。
 なぜ、「譲り受けない・・」などという規定をするのか。その答えは、<そう書くことが、法律として正しい(正確だ)から>に他なりません。
 官庁等との契約で、「著作権は国に帰属する」とされる法的根拠として、国有財産法があるとされています。しかし、一方に著作権法があり、「製作者に著作権が帰属する」と規定され、他方に国有財産法があって、「国に著作権が帰属する」とされるのは、法の体系自体に矛盾があるということになります。
 しかし、財産権としての著作権が、<契約>によって(国などに)移動することはあり得るとしても、著作権が原初的に製作者の側に発生すること、言い換えれば、映像が完成した時点で、著作権が製作者の側に帰属することは、法理論の観点からも正しい主張なのです。
 したがって、官庁等が発注時の条件として、「著作権は甲=発注者に帰属する」という文言を掲げるのは、厳密には誤りです。「甲は乙から著作権について譲渡をうける」と書くのが正確な書き方です。(Q1を参照)著作権の「譲渡」について、本来対価の交渉があってしかるべきであることは言うまでもありません。
 第25条の、「譲り受けない・・」という、一見<持って回った>ような規定を含んだ「コンテンツ振興法」が成立したことは、(少なくとも国との契約に関して)上で述べたことを、立法府が公式に認めたことに他なりません。
 従来は、このような主張をしようとしても、民法でいう<私的自治の原則>が邪魔をして、「そうは言っても、契約当事者の自由の問題でしょう」と斬り帰されれば、それ以上反論するのは困難だったのですが、今後は堂々と主張することができるでしょう。
 「コンテンツ振興法」の成立は、このように、コンテンツ製作者側の運動次第で、状況を大きく変える可能性を秘めているのです。