著作権契約 Q&A

Q1: 著作権は「発意と責任を有する」映画製作者に「帰属する」とのことですが、実際の製作過程では、企画はもちろん、構成案やシノプシスの内容にいたるまで発注者の側からさまざまな関与をしていくのが普通です。このような実態でも著作権は乙(映像製作者)に帰属すると言いきれるのでしょうか。
A1: おっしゃる意味はよくわかります。しかし、ここでいう「発意と責任」とは、単にその映像を作ることの「発意と責任」ではなく、その映像の著作・創作行為についての「発意と責任」のことなのです。したがって、発注者の関与があっても、その映像の著作・創作行為についての「発意と責任」が製作者(プロダクション)にあれば、著作権は、製作者(プロダクション)に帰属します。
契約は双方の利益を尊重し、当事者双方が納得できる契約を取り結ぶことが肝心だと思います。また受注した映像は、発注者(クライアント)のために製作するのですから、完成した映像著作物を円滑に利用できるよう配慮することは当然のことです。
そこで、著作権をどちらの側に帰属させるかが問題となるわけですが、CMの業界などでは、「CMは、広告主、広告会社、制作会社の三者の協力によって創られる」として、三者のいずれに帰属するのかを、あえて問わないことにして共通の利益をはかっているようです。映文連では、製作者(プロダクション)に原初的に著作権が発生することを発注者(クライアント)に認めていただくことを前提に、実質的な著作権の共同所有という契約方法も、発注者と製作者双方の<共存・共栄>をはかるためには、ひとつの選択肢ではないか、と提案しています。Q2では、そのひとつの形態について説明しています。なお詳しくは、会員プロダクションまたは映文連事務局までお問い合わせ下さい。
Q2: 著作権は「譲渡」できると聞きましたが、詳しく説明してください。
著作権
A2:上に示したように、ひとくちに「著作権」と言っても、その内容は大きく「著作者人格権」と「財産権としての著作権」に分かれます。このうち財産権としての著作権(映像の場合、複製権、上映権、頒布権、公衆送信権、二次利用権など)は、その一部または全部を譲渡することができます(第61条)。また、財産権としての著作権を構成する個々の権利を「支分権」と呼びますが、契約の際に支分権ごとに譲渡したり、しなかったりすることも可能です。これを「支分権譲渡」といい、実質的には著作権の共同所有になります。
なお、著作者人格権は、「著作者の一身に専属し譲渡することができない」(第18条~第20条、第59条)ことになっています。映像発注者よっては、契約によって「著作者人格権の不行使」を乙(製作者)に約束させる例もあると聞いていますが、著作者人格権とは、文字通りの意味で「人権」の一部であり、立法の精神にもとる主張を発注者が製作者に対して求めたことの証拠になるような契約条文を残すのは如何なものでしょうか。
Q3: 単なる工事記録に著作物性はあるのでしょうか。
A3: 単なる工事記録であっても、それは単なる録画物ではなく、そこには製作会社スタッフの創作性(カット割り、カメラアングルの設定、照明効果など)が含まれていますから、それは著作物として認められます。
Q4: プロダクションと契約を結ぶ際に、「著作権を甲(発注者)に帰属」させることを前提に、マスターテープを納品してもらい、頒布用のコピーは別会社に発注しようと思いますが、何か問題はあるでしょうか。
A4: 複製権は、映像製作者にとって最も基本的な権利のひとつであり、複製は、製作者(プロダクション)みずからが行うということは、広く商慣習としても確立していることです。適正な製作費を単に圧縮させる目的で、複製権を含む著作権を製作者(プロダクション)に放棄させることを事実上強要するような契約がなされているとすれば、それは「契約」の基本精神にもとるものであり、独占禁止法にいう「優越的地位の濫用行為」(Q8を参照)にあたるのではないか、とも考えられます。
映画がフイルムでなければ利用できなかった時代には、「著作権を甲(発注者)に帰属」させる契約を結んでも、映画製作会社はオリジナル・ネガの管理を託され、複製プリントの受注にあたってはその品質に責任を持って業務にあたり、契約上著作権を(無償で)譲渡していても、実質的な利益を得ることができました。しかし、ビデオさらにはデジタルコンテンツの時代になり、かつての商慣習が前提していた技術的条件が変化したにもかかわらず、契約の文言はそのまま残るという事態に、現在多くの映像製作プロダクションが困難に直面しています。
この点に関しては、昨今、経済産業省、公正取引委員会などが、コンテンツ産業の育成および独占禁止法の観点から、好ましい「契約慣行」の実現にむけて指導を強め、当連盟でも、今日的な時代の要請に応える「新しい契約パターン」の提唱を始めております。(Q1、Q2を参照
この場合、製作者(プロダクション)として是非とも主張したいことは、(1) 複製権は映像製作者にとって本来もっとも重要な権利であり、複製は製作者(プロダクション)が行うのが商慣習としても確立していること、(2) その費用は、本来製作費のなかで考慮していただくべきものであること、(3) マスターテープを納品してしまえば、複製物のクォリティに製作会社として責任がもてなくなること等にまとめられます。が、以上の主張の前提として、やはり著作権は原初的に製作者(プロダクション)に発生するという原則を、第一にお認めいただきたいと思います。私共は、発注者の皆様と取り交わす「契約」を、社会的に公正な内容とするためには、この原則の確認が第一歩になると考えております。
発注者の皆様には、著作権法が求める本来の精神をご勘案いただき、ご高配を賜りたく、お願い申し上げる次第です。
Q5: 旧作を近い将来インターネットで公開したいので、作品のコピーを納品するよう製作会社に求めました。インターネットの公開は当初の使用目的には入っていませんが、契約上「著作権は甲(発注者)に帰属」となっており、問題はないと思うのですが。
A5: 契約時当初の目的を明らかにこえると判断できる場合は、契約内容に含まれていないため、新たな利用範囲について別途契約を行うことを、製作者(プロダクション)は発注者(クライアント)に申し入れることが出来ます。ここでも著作権は原初的に製作者に発生しているという原則を、まず第一に確認していただきたいと思います。対価の問題などが発生すると思いますのでプロダクションと話し合って下さい。
また、このケースのようにインターネット上の公開など、当初の目的を超えた使用に関しては、製作に関わった様々な関係者の許諾を得なければならないことを、ご理解いただく必要があります。関係者の許諾については、下記に挙げられているそれぞれに了解を得る必要があります。申し入れをして了解を得るだけの場合と、対価を支払って了解を得る場合がありますが、特に(2)については、ほとんどの場合、対価を支払って了解を求めることになりますので注意が必要です。

  • (1) 映像の著作物の全体的形成に創作的に寄与した人
      ・プロデューサー、ディレクター、カメラマン、照明担当者、美術担当者
  • (2) 映像の部品として利用されている独立の著作物
      ・音楽、レンタル可能映像、美術(絵画等)、脚本、原作
  • (3) 映像の部品として利用され著作隣接権を持つ実演家(者)
      ・ナレーター、俳優、タレント、出演者(プロである必要は無い)

※プロデューサー、ディレクター、カメラマンなどが「製作会社」の「社員」の場合は、通常は「雇い主が著作者となる場合(法人著作)」に該当し、製作会社が「著作者」となって「著作人格権」も含む「著作権」全体を持つことになります。

Q6: 完成作品の一部を広告に使用したいので、素材を無償提供してほしいとプロダクションに申し入れています。契約書は取り交わしていませんが、当社が製作費を全額出しています。
A6: まず、「製作費を出した」ということが、ただちに映像の発注者が著作権を取得する理由になり得ないことは、「公正な著作権契約のために」のページで詳しく説明してきたとおりです。契約書が無いとのことですが、この場合、完成作品の広告への使用が当初の契約であきらかにされていない限り(だからこそ契約書を取り交わす必用があるのですが)、目的外の使用ということになりますので、製作者(製作会社)側には、あらたに利用許諾を与え、相応の対価を求める権利があることになります。
Q7: 将来の使い勝手のよさを求めたいので、製作された映像について、未来の上映手段にも対応できるよう”著作権フリー”すなわち、著作権の完全譲渡を製作会社と契約したいと思っています。
A7: 現実問題として「著作権フリーの要請」に応えることは、そう簡単ではないことをご理解下さい。
簡単ではない理由として、
  • (1) 作品の創作面に寄与した多岐にわたる関係者(社)に対し、それぞれが持つ権利の放棄の要請をするには相当の手間と、場合によっては相応な対価が必要となり、製作予算に跳ね返ること。
  • (2) 特に、未来のフォーマットまで含んだ譲渡となると、対価の算出根拠が明瞭ではないので非常に高額になる可能性が高いこと。
  • (3) すでに別個に権利を保有している特定の映像素材や音楽等は使えないことになってしまうこと。
  • (4) いくらか世に出回る「著作権フリーの素材」は、最初の料金を支払えば未来永劫使用可能というものの、それなりの素材でしかないこと。
将来あるかどうかわからない使用方法にまで、現時点での費用の発生を認めるのは、得策ではないと考えます。
Q8: 公正取引委員会が、著作権契約のありかたについて指針を公表したと聞きました。
どのような内容なのでしょうか
A8: 公正取引委員会が、平成10年3月に公表した「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」には、映像発注者と製作会社とが互いに対等な立場で、公正な著作権契約を取り結ぶために、きわめて重要なガイドラインを含んでいます。以下すこし長くなりますが、その要点を紹介します。
公正取引委員会は、上の「指針」で、例えば映像著作物のような「役務の成果物」が取引対象となる委託―受託において、「取引上優越した地位にある委託者」(発注者・クライアント)が、受託者(製作会社)に対し、「次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者(製作会社)に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。」として、3つのケースにおいて、「独占禁止法上問題」となると指摘しています。要約すると…
  • (1) その映像著作物が委託者との取引の過程で得られたこと、また委託者の費用負担により製作されたことを理由として、一方的に著作権を委託者に帰属させる場合。
  • (2) その映像著作物が、委託者との取引の過程で得られたこと、または委託者の費用負担により製作されたことを理由として、受託者に対し、一方的に二次利用を制限する場合。
  • (3) 「他に転用可能な成果物等」(例えば未使用の映像素材です。)が、委託者との取引の過程で得られたこと、または委託者の費用負担により製作されたことを理由として、一方的にその著作権を委託者に帰属させたり、受託者に対し、その二次利用を制限する場合。
なお、「取引上優越した地位にある場合」とは、同指針で次のように定義されています。「受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、委託者が受託者にとって著しく不利益な要請等を行っても、受託者がこれを受け入れざるを得ないような場合」その判断に当っては、
  • ・受託者の委託者に対する取引依存度、
  • ・委託者の市場における地位、
  • ・受託者にとっての取引先変更の可能性、
  • ・取引当事者間の事業規模の格差、
  • ・取引の対象となる役務の需給関係等
を「総合的に考慮する。」としています。

(2003.9.30)